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暇な公認会計士が、監査や身近な会計、その他自由に意見を述べています。

PTAの会計監査のやり方:具体的な手続を解説します

「PTAの会計監査担当になったものの、会計監査のやり方を理解していない」。そんな人は結構いるのではないでしょうか。会計監査が機能せずハンコを押すだけのなんちゃって監査となってしまっている団体も少なからずあると思います。

しかし、PTA活動を安定して継続するためには会員からの会費収入が欠かせません。会費収入を得るためには、PTAの活動が適正に行われていることを会員に対して証明することが必要です。特に、資金の管理を適切に行い、当年度の支出実績と予算の関係を収支計算書に取りまとめて会員に報告することは、会員からの信頼確保のために必須です。会計監査は収支計算書の信頼性を高めることに貢献し、PTA活動をサポートする重要な役割です。

今回はPTA会計監査担当者のために、監査でどんなことをやれば良いのかまとめたいと思います。多くの場合、監査の対象は収支計算書だと思いますので、収支計算書を前提として話を進めます。まず、監査をするためには収支計算書がどのように作成されているのか理解することが必要です。次に、収支計算書の作成元となる試算表が正しいかチェックを行います。そして最後に、収支計算書自体が正しく作成されているかのチェックを行います。

 

    • 決算報告書がどのように作成されているのか理解をする。
    • 残高試算表が正しく作成されているかチェックを行う。
    • 決算報告書が正しく作成されているかチェックを行う。

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収支計算書がどのように作成されているのか理解をする

収支計算書がきちんと作成されているのかチェックしたい気持ちはわかります。ただ、そもそもどうやって収支計算書が作成されているのか理解していないと、どこをどうチェックすれば良いかわかりません。日々の取引がどこに記録され、その集計はどのように行われ、どのように収支計算書に数値が記入されているのか、その過程を理解する必要があります。具体的には以下の手続を行うと良いでしょう。

  • 帳簿は何を使っているのか。紙のノートか、Excelか、それとも会計ソフトか、どんな帳簿を使っているのか確認をしましょう。
  • 誰が帳簿に記入するのか。帳簿に取引を記録できるのはPTAの会計担当役員といった限られた人だけでしょうか?それとも分科会や委員会の委員長や会計担当者なども入力可能でしょうか。
  • 帳簿の集計は誰が、どのように行うのか。収支計算書を作るためには取引を集計し、各勘定科目の年間収支金額を計算することが必要です。この集計は人手で行うのでしょうか?それともExcelや会計ソフトの自動計算でしょうか?もしExcelを使っている場合には、計算式が合っている(前年度のをそのまま使ってOKである)ことを誰が確認したのでしょうか?
  • 帳簿の集計結果として残高試算表が作成されるか。簿記では、各勘定科目の残高をまとめた「残高試算表」を作ることが一般的です。残高試算表を作成しているかチェックしましょう。もし作成していない場合には、集計結果をどのように集約・把握しているかチェックしましょう。
  • 残高試算表の数値がどのように収支計算書に記入されるか。残高試算表の数値は、いくつかの科目をさらに集約して収支計算書に記入することがあります。この場合には集約方法を確認しましょう。

残高試算表が正しく作成されているかチェックを行う

帳簿に記録された取引は集計され、残高試算表にまとめられることが一般的です。残高試算表は収支計算書の基礎となる資料であり、ここで作成ミスをすると当然収支計算書も正しく作成されません。前年度からの変更点のチェック、集計が正しく行われているかの計算チェック、そして可能であれば取引のサンプルチェックを行うことで、残高試算表の正確性を検証できます。

  • 前年度からの変更点をチェックする。特に勘定科目の追加・削除・名称変更に注意しましょう。Excelを使用している場合には、勘定科目の変更が式に反映されていない、追加した行が集計範囲に含まれていないなどのミスが起こりがちです。ミスが起こりそうなところを把握するためにも変更点のチェックは大切です
  • 各科目の集計が正しく行われているか再計算する。地道に各科目の集計が正しいか計算をしましょう。帳簿がノートであれば電卓で集計しましょう。Excelだったら式が正しく設定されていることを確かめるのでも良いと思います。外部のソフトを使っている場合にはソフト自体を信頼するとか、1つの科目だけチェックをする(それでOKであれば他の科目も正しく集計されていると推測する)という方法もありです。
  • 次年度繰越金と資金残高が一致していることを確かめる。通常、次年度繰越金は銀行預金や現金の期末残高と一致します*1。一致していることを確かめましょう。不一致となっている場合には原因の調査が必要です。特別の理由がない場合、不一致は会計処理の誤りや漏れがある証拠となります。少額であっても気を抜かず、徹底的に調査をすることが必要です
  • (余裕があれば)取引のサンプルチェックを行う。残高試算表は取引を集計したものです。個別の取引レベルで誤りがあれば残高試算表も不正確なものとなってしまいます。とはいえ、取引レベルのチェックまで行うと業務量が増えてしまうため、PTAの会計監査では実施している団体は多くないと思います。ここではサンプルチェックを行う場合の例を上げておきたいと思います。
    • 会費収入:会費の徴収台帳と照合する。徴収台帳自体が正しく作成されているかチェックする(家庭の会員、教職員の会員、その他の会員が漏れなく・重複なく含まれているかチェックする。入金が正しく記録されていることを通帳の入金記録や現金回収時の封筒と照合する。前年度未収の入金の有無、当年度の未収の有無をチェックする)
    • 経費:金額の大きな取引や、すべての経費の中からランダムに選んだ経費について、その支出の根拠となる資料(請求書、領収書、契約書、など)と照合する。その支出がPTAの運営にとって必要であるのか、誰かの私的な経費ではないか、支出の妥当性を判断する。

収支計算書が正しく作成されているかチェックを行う

ここまでに収支計算書の作成過程を理解し、収支計算書の基礎となる残高試算表が正しく作成されていることも確認できました。遂に最後の大仕事である収支計算書のチェックに進みましょう。収支計算書のチェックでは、まず勘定科目に前年度から変更があるかどうか確かめます。次に、残高試算表(または組替表)から正しく数値が記入されているかチェックしましょう。収支計算書には予算の列もあると思うので、定期総会で承認された予算と一致しているか確認します。予算と実績(残高試算表から記入した数値)の差額もある場合には、差額の計算が正しいかチェックが必要です。さらに予算と実績の差額についてコメントが記載されている場合には、その内容が妥当であるかも確かめましょう。

  • 収支計算書の勘定科目に前年度から変更があるかどうか確かめる。勘定科目は前年度と同じ科目名を使用することが基本です。同じ内容の費用で科目名を変える場合には、科目名を変更したことを収支計算書の脚注などで説明することが望ましいです。また、残高試算表のいくつかの科目を集約して収支計算書に表示している場合には、集約方法が変更されていないかを確かめ、もし変更されているのであれば同様に脚注などで説明することが望ましいです。読み手が複数年度の収支計算書を見比べたときに、科目別の収支の推移を理解しやすくなります。監査の観点では、前年度からの変更がある場合に、必要な脚注が適切に記載されているかをチェクしましょう
  • 残高試算表から正しく数値が記入されているか確かめる。収支計算書に記載される当年度の実績値と残高試算表を照合し、一致していることを確かめましょう。また、残高試算表のいくつかの科目を集約した上で収支計算書に記入されている場合には、集約方法に変更がないこと、集計が正しく行われていることをチェックしましょう。
  • 予算の数値が定期総会で承認された予算と一致しているか確かめる。収支計算書は予算・実績・予算と実績の差額の3つの数値が表示されることが一般的です。こうすることで会員に対し、活動の前提となる予算(会費を受け取る根拠となる活動計画)に対し、当年度の支出実績(受け取った会費をどう使ったか)を報告することができます。監査の視点では、収支計算書の予算の値と定期総会などで承認された予算を照合し、一致していることを確かめましょう。なお、年度の途中で予算を改定している場合には、改定後の予算のみを表示する場合と、当初予算・改定後予算の両方を表示する場合がありますが、過去の慣例に合わせて表示されていれば特段問題はありません。
  • 予算と実績の差額が正しく計算されているか確かめる。予算と実績の差額は、「予算実績差額」「予実差額」、単に「差額」などの表現で表示されます。差額の計算が正しく行われているか、電卓を使って再計算をしたり、Excel等であれば算式をチェックするなどして差額が合っていることを確かめます。計算を行う際には予算と実績のどちらからどちらを引くのかに注意をしましょう
  • 予算と実績の差に対するコメントが妥当な内容であるか確かめる。予算と実績の差額について、「摘要」や「差額の原因」などとして収支計算書に記載されていることがあります。予算実績の差額として書かれているコメントが妥当であるかチェックをしましょう。細かいことですが、数値の増加・減少の方向と、コメントにある増加・減少が整合しているか注意をしてください。例えば、会費収入が減少しているのにコメントで「生徒数 +10人」とあったらおかしいですよね。ですが、意外とこういうことは起こってしまいます。最後まで気を抜かずチェックしましょう!

(他に参考となるサイト)
福岡市PTA協議会HPより「PTA会計の管理や監査時において守るべきポイント   

 

今回の記事では、PTAの会計監査担当者向けに、会計監査のやり方を解説しました。「こんなにやるの!?」「うちではこんなにやってない……」というご意見が聞こえるような気もしますが、収支計算書を正しく作成し会員に報告することは、PTAの活動を継続するために、次年度の会費収入を得るための信頼性確保のためにとても大切なことです。ぜひ効果的な会計監査を実践し、PTAの活動をサポートしてください!

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*1:未収金、前渡金、未払金、前受金などを資金に含めている場合(未収会費も会費収入に計上するような場合)には、次年度繰越金と資金残高は一致しません。