input & output

暇な公認会計士が、監査や身近な会計、その他自由に意見を述べています。

PTA収支会計の疑問|決算日後に経費の精算を依頼された場合の収支会計における対応

すみませーん!3月に支出した経費の精算お願いしまーっす!

(決算の3月31日までにレシート送れっていったダロー💢)
決算日過ぎちゃっているので、どう処理するか確認するのでちょっと待ってくださいねー。

決算日を3月31日としているPTAの方は、今まさに決算作業中だと思います。そんなな中、「3月の経費の請求漏れてましたー」とか言われるとちょっと困っちゃいますよね。とはいえ立替てもらっていた経費を精算しないわけにはいきません。ひとまず精算を完了したとしましょう。

さて、今回決算作業中に発見された3月中の支出は、どのように収支会計上の処理をすれば良いでしょうか?色々疑問が生じると思います。

  • 3月の支出だから3月に計上?でも現金預金は3月31日で確定しているから、支出だけ計上すると繰越金が合わなくなっちゃう・・・。
  • 会社で経理をするときはこういったとき「未払金」を使っているなぁ。だけど収支会計で未払金って使っていいの?
  • もう新年度の支出にしちゃって良いんじゃない?

今回は決算作業中に見つかった前年度の経費について、収支会計でどのように処理すれば良いか解説をします。先に3つの解決法を示しておきましょう。①決算日時点の現金で調整を行う方法、②未払金で調整を行う方法、そして③新年度の支出として処理する方法です。それぞれ一長一短がありますので、順に解説していきます。

 

 

解決法1:決算日時点の現金で調整を行う方法

最も簡単な方法は決算日時点の現金で調整を行う方法です。例えば、経費精算を4月8日に行ったとしても、3月31日に現金で支出を行なったものとして処理を行います。この方法を採用する場合には、支出が実際に支出を行われた年度に計上されることから収支計算(及び予算と実績の差の報告)をより正確に行うことができます。一方で、期末日後に現金残高の修正を行うことから、現金実査を何度も行なったり、会計仕訳の追加や収支計算書(決算報告書)の修正を行う手間がかかります。

  • メリット
    • 当年度の収支がより正しくなる(実際に精算を行った4月8日の経費とすると、本来前年度に含まれるはずの支出が新年度に入ってしまう)
  • デメリット
    • 現金実査を何度も行う手間がかかる(現金が動くたびに実査をする必要がある)
    • 決算作業中の会計仕訳の追加や収支計算書(決算報告書)の修正をする手間がかかる

この方法を行う場合には、決算日(3月31日)時点の現金残高から決算作業中にどのような支出が行われ、最終的な残高がいくらになったのかを記録することが望ましいです。例えば以下のように、現金実査表の下部で決算日後支出を記載する欄を設けておけばパッと見でわかりやすいと思います。

現金実査表:期末日後の調整を書ける様式

上記の現金実査表では、「実査後支出」として4月8日に800円を現金で支出しています。実際の支出は4月8日ですが、経理上は3月31日に支出があったものとみなし、3月31日の支出として計上します。結果として現金の最終残高は33,660円となり、これが次年度繰越金となります*1

留意点として、規約・会計ルールにおいて「決算日後の現金支出はこれを一切認めない」などと決められている場合にはこの方法を利用できません。

解決法2:未払金で調整を行う方法

一般的な企業では、決算日までに発生したけれど支出が行われていないものは「未払金」で処理すると思います*2。PTAの収支会計ではどうでしょうか?

収支会計とは「資金」の収入・支出を記録する会計手法です。あえて「現金・預金」と書かずに「資金」と書いているのは理由があります。「資金」にどのようなものを含むのかは会計ルールで決められる、つまり現金・預金以外にも資金に含めることができるのです*3

「資金」に何を含むかはPTA規約に明記する必要があります。PTA規約の会計に関する条項の中で、「収支会計における資金には、現金、銀行預金、未払金を含むものとする。」というように定めることで、未払金を使って調整することができます*4

資金の範囲に未払金も含む場合に留意する点として、繰越金と現金・預金残高が一致しなくなることがあげられます。簡単な例で見てみましょう。未払金の計上前の段階で、前年度繰越金がゼロ、当年度の収入が1,000(全て現金)、当年度の支出が700(全て現金)の場合、次年度繰越金は300となります。この300は全て現金であり、次年度繰越金と現金の残高は一致します。

資金の範囲が現金だけなら次年度繰越金と現金残高は一致する

ここで、期末日までに精算が済んでいない支出100があることが判明しました。これを決算に反映させるために、支出合計に100を追加し800にします。結果として次年度繰越金は200となりますが、現金は動いていないため300のままであり次年度繰越金と一致しません

未払金があると次年度繰越金と現金残高が一致しない

資金の範囲に未払金を含めた場合、次年度繰越金は【現金・預金】ー【未払金】となります。読み手にわかりやすいように次年度繰越金の内訳を収支計算書の補足資料として添付することが望ましいです*5

次年度繰越金の内訳表を示すことでわかりやすくなる

内訳は表にした方が見やすいと思いますが、単に収支計算書の下部に「次年度繰越金200円の内訳は、現金300円、未払金100円です」と記載する方法も考えられます。

解決法3:新年度の支出として処理する方法

期末日後に決算時点の現金を動かすことが認められておらず*6、しかも規約で資金の範囲を「現金・預金」に限定している場合にはどうしたら良いでしょうか?新年度の支出として処理するしかないでしょう。

新年度の支出として処理する場合には、通常の支出に含める方法前年度の支出を計上するための勘定科目を使用して処理する方法の2通りが考えられます。

  • 通常の支出に含める方法前年度の立替経費であっても実際に支出を行った日に計上します。3月中の経費を4月8日にPTAの資金で精算した場合には、4月8日(新年度)の経費として扱います。この場合、新年度の予算との整合性に疑問が生じます。当年度の予算に前年度の支出分を含めておくのか、単に予算差額の原因の一つに含めるのか、いずれにしても予算・実績のどちらかに歪みが生じることとなります。
  • 前年度の支出を計上するための勘定科目を使用して処理する方法:予算への影響を最小限に抑える方法として、「前期支出調整」などの勘定科目を用意し、前年度に計上すべきであった支出をすべてこの勘定科目で処理することが考えられます。他の科目の予算への影響は抑えられる一方で、前期支出を容認するような勘定科目を設けることで決算に対する意識が低くなる恐れがあります*7

個人的には新年度の支出として計上することは反対です。予算超過を逃れるために意図的に経費精算を遅らせるかもしれません。当年度の支出が正しく計算されていないということは、予算と実績の比較が正しく行われないですし、次年度の予算を策定する際に不完全な情報を使うことになってしまいます。結果として予算による異常な支出のチェックができなくなってしまいます

解決法1、2のどちらも使えない場合の最後の手段としておくのが良いでしょう。

input-and-output.hatenablog.com

 

 

判定フローチャート

今回の記事では、決算日後に経費の生産を依頼された場合の収支会計における対応として3つの方法を解説しました。

  1. 決算日時点の現金で調整を行う方法
  2. 未払金で調整を行う方法
  3. 新年度の支出として処理する方法

最後に全体をまとめて解決法を選択するためのフローチャートを示しておきます。実務で迷った際にはご利用ください。

判定フロー:期末後支出の処理方法

今回の記事では、「PTA収支会計の疑問|決算日後に経費の精算を依頼された場合の収支会計における対応」について解説しました。この記事に関するご質問・お問い合わせがございましたら、コメント欄かお問合せフォームよりご連絡いただけると嬉しいです。

*1:ちょっと言葉足らずかもしれません。資金が現金のみの場合には「決算残高」が次年度繰越金となります。預金もある場合には預金残高と合わせた額が次年度繰越金となります。例えば3月31日の預金残高が20万円の場合には、預金残高(200,000円)と現金決算残高(33,660円)の合計(200,000円+33,660円=233,660円)が次年度繰越金となります。

*2:複式簿記では【費用 / 未払金】の仕訳を起こします。細かいことですが消費税の仕訳は省略しています。

*3:一般的な企業の会計ルールに馴染んでいる人用に補足します。収支会計には収入・支出を現金主義的な方針(現金・預金の収入、支出に限定する方針)で扱うものと、発生主義的な方針(現金・預金の入出金がなくても当年度に帰属する収入、支出を収支に含める方針)で扱うものがあります。労働組合会計基準に関するこちらの解説資料(P.14〜15)をご参照ください。現在「収支計算書」という名称が付されていてきちんと会計基準が公表されているものとしては、労働組合の収支計算書、学校法人の資金収支計算書があり、労働組合会計基準・学校法人会計基準のどちらも発生主義的な方針を採用しています。

*4:未払金以外にも、未収入金、立替金、前受金、前払金など、短期で決済される金銭債権を含めることが考えられます。

*5:PTA規約を読んでいない人、読んだけど会計のことはよくわからない人にとっては、「次年度繰越金=現金・預金残高」と思うことが一般的だと思います。変に誤解を与えないよう必要な情報はオープンにしていきましょう。

*6:期末時点で現金を全く持っていない場合や、支出に対して現金残高が過少の場合を含む。

*7:「どうせ前期支出調整で処理するから遅れてもいいや」と考える人が出てくることは容易に想像ができます。これがまかり通るようになると、予算の設定も決算報告(予算と実績の対比)も意味がなくなり、資金管理が曖昧になる未来が見えてきます。