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不正支出を防ごう!PTAの資金管理のポイント💰

新年度になりました。新しい執行部体制で今年度のPTA活動が始まっているところも多いと思います。もう少ししたら新入生が入ってきて、会費の徴収を行うでしょう。学校の規模にもよりますが、数十万円程度のお金が集まってくるわけです。お金が集まるということは、そう、あれですね。

資金の流出や不正使用を防ぐ体制はできていますか?

PTAや、PTAの関連団体でもで資金の不正支出は起きています。今回の記事では「不正支出を防ごう!PTAの資金管理のポイント💰」として不正支出の発生原因・事例・防ぐ仕組みを解説したいと思います。

 

 

 

不正支出の発生原因・事例・防ぐ仕組みを理解しよう

PTA執行部が不正支出に対応するためには、まずは不正支出が起こる原因を理解することから始めましょう。個人が不正を起こすきっかけをモデル化した「不正のトライアングル」をもとに解説します。原因を理解したあとは、実際に起こった不正支出の事例を知ることが大切です。上場企業で不正の原因を調査した結果である「第三者委員会報告書」は最良の教材です。原因と事例について理解を深めたら今度は実践です。不正支出を起こさせない仕組みを作ることで、PTAの資金を不正支出から守ることができます。内部統制(内部のチェック体制)の考え方を参考に、実践例を7つ紹介します。

不正支出が起こる原因を理解する(不正のトライアングル)

「火のない所に煙は立たず」と言いますが、不正支出も何かしらの原因があって起こるものです。個人レベルで不正を行う原因をモデル化したものとして不正のトライアングルというものがあります。不正のトライアングルとは、不正が生じるのは機会動機正当化という3つの要因がそろうことであるというものです。

  • 機会:不正をできてしまうような環境が存在すること。不正をするチャンスがあること。
  • 動機:不正をするきっかけ、不正をしたくなる気持ちがあること。
  • 正当化:不正をしても許されるような環境や、不正への抵抗が少ない心理状態(別にやってもいいっしょ😊、のような気持ち)のこと。

これらの要因別に、具体例を3つ見ていきましょう。

  • 具体例1:お菓子を我慢するように言われている子どもがお菓子を食べてしまう
    • 機会(チャンス):お菓子が机の上に置いてあり、いつでも手が届く😳
    • 動機(きっかけ、気持ち):おなかすいた🥺
    • 正当化(許される):大して叱られない😛、おなかが空いているんだから仕方がない😗
  • 具体例2:使ってはいけないPTAのお金をついつい自分のことに使ってしまう
    • 機会(チャンス):テキトーな理由(打ち合わせ時のドリンク代とか)をつけてレシートを持っていけば、チェックもせずに支出を承認してくれる。支出を個別にも、全体としてもチェックしていない😈
    • 動機(きっかけ、気持ち):ちょっと友達とコーヒーを飲みたい☕️
    • 正当化(許される):数百円くらいなら万が一バレても「間違えましたー😋」といえば何とかなる。
  • 具体例3:リボ払いが回らなくなりそうな会計担当者💸
    • 機会(チャンス):PTAの会計全般を任されていて、通帳・印鑑・キャッシュカードを持っているし、会計仕訳も自分で入力できる💰
    • 動機(きっかけ、気持ち):今月のリボ払いが5万円くらい払えなさそう💸身内にはリボ払いのことをバレたくないし、消費者金融にも頼りたくない。
    • 正当化(抵抗が少ない):今から支出を切り詰めれば来月すぐに返せる・・・はず!👍

かなり具体的にトライアングルをイメージできるようになったのではないでしょうか。不正を防ぐためには3つの要因を取り除くことが必要です。

例えば具体例1であれば、お菓子を見えないところ、手の届かないところにしまっておくことが有効でしょう。

具体例2の場合は、レシートを受け取った会計担当者が支出の目的をきちんと聞く(何のための打ち合わせか、相手は誰か、など)ことで防げる可能性が上がります。さらに数百円の不正でも、そのようなことをする人には支出(立替での支出)を認めないとする環境も効果的です。

具体例3はどうでしょうか。帳簿への記帳と資金の管理をまとめて1人に任せることがよくありません。帳簿への記帳、資金の管理は別の人が担当するようにすることで、相互のチェック体制が働きます。*1

不正のトライアングルについてはだいぶ理解が進んだと思います。それでは次に不正支出の事例を見ていきましょう。

不正支出の事例を知る(第三者委員会報告書、社内調査報告書)

不正支出を防ぐぞ!と意気込んでも、いざどのように不正支出が行われるかを知らなければ対策を立てるのは難しいと思います。ですので、色々な事例を知りましょう。

不正を知るためには「第三者委員会報告書」や「社内調査報告書」がメチャクチャ役に立ちます。

  • 三者委員会報告書:企業や団体で何かしらの不祥事があった際、その企業等と無関係な第三者*2が不正の原因や内容の調査、改善案を策定したものをまとめたレポート。
  • 社内調査報告書:社内の関係者*3を中心に組成された調査委員会が公表する報告書。メンバーに第三者の弁護士や公認会計士を含む場合もある(一般的に、調査委員会に社内の関係者が1名でも入ると「第三者委員会」とは名乗りません)。

報告書には、不正がなぜ、どのように行われたか、どうすれば防ぐことができたかが要約*4されています。いくつか具体的な事例を見てみましょう*5

さいたま市PTA協議会の事例

city.saitama-pta.jp

まずは結構最近かつPTA関連団体として(珍しく)報告書が公表されている案件です。事案の概要としては、元会長が「防災事業委託費」なるものを、十分な承認を得ないまま保険代理店に支払ったというものです。幸い支払ったお金は返ってきているようです。

報告書を読んでみると、元会長Aは強い影響力があり協議会を私物化していたようであり、予算・決算も事務局長と元会長Aで作成し、予算は他の関係者によって十分検討された形跡がない、とのことです*6。また、本協議会では支出についてのチェック機能が働いていなかったと断定されています*7。つまり、不正をする機会(チャンス)が十分に存在していたのだと推測できます。

非常に分かりやすい事例のためご一読をオススメします*8

株式会社ハマキョウレックスの事例

www.hamakyorex.co.jp

こちらは企業の事例です。倉庫のセンター長を務めていた人が、配送事故に対する補償を自己資金で行ない、会社の帳簿に損失を計上しないようにしていました。しかしだんだんとお金が足りなくなってきて、会社の資金を流用するため外部と共謀し架空経費の計上&着服を行い、そのうち着服額が増えていって遊興費や株式投資に使ってしまう・・・というものです*9。分かりにくいかもしれないので図で示しておきます。

報告書に書かれている内容から、先ほどの不正のトライアングルの各要因に該当するものをまとめてみました。以下の通り、すべての要因がそろっている状況にあったようです。

  • 機会(チャンス):センター長の裁量によって請求内容が決められてしまう状況にあった、センター長の裁量が広すぎた(調査報告書 p.22)。内部監査も対象外で、不正が行われた業務に関する業務フロー(仕事を進める手順)が未整備でダブルチェックも行われていなかった(調査報告書 p.22〜23)
  • 動機(きっかけ、気持ち):自身の職場での評価を下げたくない、遊興費や株式投資にお金を使いたい(調査報告書 p.8)
  • 正当化(許される):不正を良しとしてしまうような人材育成の不備(調査報告書 p.21)

これらの要因のうち、動機や正当化の部分はコントロールが難しいかもしれません。ですが機会は会社側でどうにかできたはずです。例えば「センター長の決裁権限を制限し、一定額以上は上位者(部署の上長や管掌する取締役など)の承認を要する」とすれば、多額の資金流出は防げたのではないでしょうか*10

その他の事例

他にも事例を探しはじめればキリがありません。興味のある方は「企業 資金 不正 利用」とかで検索をしてみたり、上場企業の調査報告書をまとめている「第三者委員会.com」というサイトを訪問してみてください。

www.daisanshaiinkai.com

不正支出を起こさせない仕組みを構築する(内部統制の構築)

ここまでに不正支出が起こる原因と事例を理解しました。どんなときに、どんな手口で不正が行われるか、なんとなく頭に入ったのではないでしょうか。

これまでの学びを活かして不正支出を起こさせない仕組みを構築してみましょう。監査の業界ではこういった仕組みを「内部統制」と呼んでいます。内部統制のポイントは、不正のトライアングル(機会・動機・正当化)を崩すことです。トライアングルのどれか一つを潰すだけでも効果があります。

具体的な内部統制の例を7つ挙げますので、自身の所属するPTAに合うように実践してみてください。以下の例では、【機会】を奪うことを焦点としています*11

  1. 現金を持たない現金はそのまま持っていけてしまいます。ちょっとお金ほしい→そこに現金が置いてある→すぐに返すから使っちゃおう。こういった思考を起こさせないためにも現金の扱いはやめましょう。急な出費に備えて必要?本当にそんな急な出費はあるのでしょうか?本当に急であれば、誰かがその場で立替えておいて、後で精算すれば良いだけではないでしょうか*12
  2. 会計記録をする人と入出金をする人を分ける(会計帳簿への)記帳と現金預金を管理する人を分けるというのは内部統制の基本中の基本です。これを分けておかないと、自分の支出を自分で承認して自分で仕訳もする、というようになんでもできてしまいます。どうしても規模が小さく会計・経理を1人で行なっているような場合には、会計担当者の支出は他の役員がチェックする(他の役員のチェックを受けないと支出を認めず返金してもらう)といった体制を整備する必要があります。
  3. 通帳、印鑑、キャッシュカードの全てを1人に渡さない:資金を使う際に1人でできないようにすることは、個人による使い込みを防止するためにとても有効です。通帳と印鑑は別の人が持つ、キャッシュカードを作っている場合にはカードを持っている人と暗証番号を知る人を分ける、というように、1人で入出金できないようにしましょう。
  4. 支出時のチェック:提出された領収書・請求書に対してそのまま支出するのではなく、会計担当者は内容をチェックしましょう。会計担当者は資金の番人になってください。その支出はPTA活動に必要な内容でしょうか。カフェで打ち合わせをする必要があるのでしょうか?文具代を払ったようですがその文具はどこにあるのでしょうか?
  5. 抜き打ちの残高チェック:監査担当者による監査はいつ行われても良いはずです*13。年度末の仕事だけで楽ちん♪とふんぞり返っていないで、抜き打ちで資金のチェックをしましょう。周年事業用にプールしてある預金は要注意です。普段誰の目にもとまらないのをいいことに、流用されているかもしれません*14。明日抜き打ちでチェックしましょう。
  6. 予算と比較したチェック:1つ1つの支出で異常を見つけられなくても、支出全体で見ると異常が見えることがあります。上述4の支出時のチェックを全ての経費に行うことはだいぶ労力がかかります。実務上は、「数百円程度のレシートは無視しよう」となることもあるでしょう。不正をする側がそれを知ったら1000円未満の不正支出を何回もするかもしません*15。これを防ぐために予算を使いましょう。予算が適切に作成されているならば、不正な支出があれば予算を超過する可能性が高いです。予算超過の原因が適正なのか、それとも異常な支出があったためなのか。予算と実績の比較は不正に気づける最後の砦です。
  7. 長期間の関与を禁止する:PTA役員の成り手が少ない場合には、同じ人が何年も役員を務める場合があります。また、一度「会長」をやるとその後も何だかんだと関わりを持って、「裏ボス」のような存在になることもあります。長期間関与していると、チェックの緩む時期や抜け穴を見つけやすくなります。周りの人も、「あの人ならずっと関与しているから安心❤️」といった意味不明な信頼を抱いていて、チェックが甘くなる可能性があります。「全ての役員の任期は通算して3年を超えることができない」などのルールを設け、抜け穴や統制を緩める雰囲気を作り出さないようにしましょう。

* * *

今回の記事では「不正支出を防ぐための、PTAの資金管理のポイント」について解説しました。この記事に関するご質問・お問い合わせがございましたら、コメント欄かお問合せフォームよりご連絡いただけると嬉しいです。

*1:PTAが関与することではないですが、リボ払いをさせないように夫・妻・その他身内が声をかけるとかも有効です。あんちょくな考え方はなかなか改善が難しそうですね。

*2:弁護士や公認会計士などの専門家を構成員とすることが多いです。

*3:監査役社外取締役、法務責任者などが含まれるケースが多いです。

*4:要約とはいっても数十ページ〜数百ページはあります。

*5:法令で公表が求められるものではないため、一定期間経つとHP等から削除されている可能性があります。リンク先の事例が消滅していたらコメント欄で教えていただけると助かります。

*6:報告書 p14 第3本件の分析(2)。

*7:報告書 p16 第3本件の分析(6)

*8:個人的な偏見を書いておきます。規模は関係なく、長期間ボスをやり続けて権力を持っている(声がでかい、誰も逆らえない)人、謎の顧問や名誉会長といった役職、会計担当者が長期間変わっていない、といった状況はヤバイ可能性が高いと思います。

*9:X社の事例のみ抜粋しています。

*10:人間は賢いもので、こういった制限をすると、回数を増やして制限金額未満で不正を繰り返す、ということをしだします。これを防止するために定期的に内部監査を行い、支出の内容に問題がないか、支出の傾向(ある金額で経費の支出額、支出頻度が増減していないか)を調査することが大切です。

*11:動機・正当化は個人の心理的な面が強いです。企業であれば研修等を通じて不正を起こさせない機運を醸成することもできますが、PTAという活動機会が限られ強制力もない団体ではこれに対応することが難しいからです。

*12:PTAで「急な出費」って本当にないと思うんですけど、何かありますか?着払いの荷物なんて来ないでしょうし、ちょっと文具類が必要であれば誰かが立替えれば良いだけです。

*13:年度末だけにしか監査をしないようにPTA規約で決められているのなら、次の総会で規約を変えましょう

*14:現金や一般会計の預金であれば「明日・来週・来月返せば良いや」に対し、誰もチェックしない特別会計の預金は「来年返せば良いや」となり、より不正に使われやすい状況にあります。

*15:私的に少額な文具や飲食に使ったり、(犯罪ですが)そこら辺のレシートを拾ってきて提出するかもしれません。