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暇な公認会計士が、監査や身近な会計、その他自由に意見を述べています。

監査報告書にはどんなことが書かれますか?

質問

今年度初めて監査を受け、数日後には監査報告書が発行される予定です。ただ、監査報告書にどのようなことが記載されるのか分からず不安です。監査中に発見された細かい誤りなども記載されるのでしょうか?

回答

公認会計士監査で発行される監査報告書の内容は、ほとんどが記載例に基づいた定型文です。

無限定適正意見が表明される場合には、監査中に発見された誤りが監査報告書に記載されることはありません。

無限定適正意見以外の意見が表明される場合には、無限定適正意見としなかった理由(財務諸表の誤りの内容等)が記載されます。この場合でも全ての誤りを列挙するのではなく、重要な原因に絞って記載されます。

監査報告書の記載例

日本公認会計士協会JICPA)は監査報告書の記載例を公表しています。

金融商品取引法会社法用の記載例は監査基準報告書700実務指針第1号「監査報告書の文例」として公表されています。基本的には記載例と一言一句、句読点の位置まで一致することが一般的です*1。興味があれば上場企業のHPやEDINETで閲覧が可能ですので、各社の記載内容を比べてみてください。

銀行のローン契約に基づく監査等の任意監査の場合には監査基準報告書800「特別目的の財務報告の枠組みに準拠して作成された財務諸表に対する監査」の付録にある記載例をもとに、監査チームが各監査業務に合うように文章を考えます。

任意監査における監査報告書の記載事項

以下では監査基準報告書800「特別目的の財務報告の枠組みに準拠して作成された財務諸表に対する監査」の文例1(無限定適正意見)を以下で引用し、任意監査の場合にどのようなことが記載されるか解説します。

独立監査人の監査報告書

×年×月×日

○○株式会社
取締役会 御中

○ ○ 監 査 法 人          
○○事務所            
指 定 社 員            
業務執行社員 公認会計士 ○ ○ ○ ○
指 定 社 員            
業務執行社員  公認会計士 ○ ○ ○ ○


監査意見
 当監査法人は、○○株式会社の×年×月×日から×年×月×日までの事業年度の計算書類、すなわち、貸借対照表損益計算書、株主資本等変動計算書及び個別注記表並びにその附属明細書(以下「計算書類等」という。)について監査を行った。
 当監査法人は、上記の計算書類等が、全ての重要な点において、個別注記表の注記Xに記載された会計の基準に準拠して作成されているものと認める。

監査意見の根拠
 当監査法人は、我が国において一般に公正妥当と認められる監査の基準に準拠して監査を行った。監査の基準における当監査法人の責任は、「計算書類等の監査における監査人の責任」に記載されている。当監査法人は、我が国における職業倫理に関する規定に従って、会社から独立しており、また、監査人としてのその他の倫理上の責任を果たしている。当監査法人は、意見表明の基礎となる十分かつ適切な監査証拠を入手したと判断している。

強調事項-計算書類等作成の基礎
 注記Xに記載されているとおり、計算書類等は、株式会社○○銀行との銀行取引約定書の財務報告条項を遵守するため、会計監査人設置会社に適用される「我が国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準」によらず、中小企業のための一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行として認められている「中小企業の会計に関する基本要領」に準拠して作成されている。同要領においては、一定の場合には会計処理の簡便化や法人税法で規定する処理の適用が容認されているため、上記以外の目的には適合しないことがある。当該事項は、当監査法人の意見に影響を及ぼすものではない。

その他の記載内容
 その他の記載内容は、監査した計算書類等を含む開示書類に含まれる情報のうち、計算書類等及びその監査報告書以外の情報である。
 当監査法人は、その他の記載内容が存在しないと判断したため、その他の記載内容に対するいかなる作業も実施していない。

計算書類等に対する経営者及び監査役の責任
 経営者の責任は、注記Xに記載された会計の基準に準拠して計算書類等を作成することにあり、また、計算書類等の作成に当たり適用される会計の基準が状況に照らして受入可能なものであるかどうかについて判断することにある。経営者の責任には、不正又は誤謬による重要な虚偽表示のない計算書類等を作成するために経営者が必要と判断した内部統制を整備及び運用することが含まれる。
 計算書類等を作成するに当たり、経営者は、継続企業の前提に基づき計算書類等を作成することが適切であるかどうかを評価し、継続企業に関する事項を開示する必要がある場合には当該事項を開示する責任がある。
 監査役の責任は、財務報告プロセスの整備及び運用における取締役の職務の執行を監視することにある。

計算書類等の監査における監査人の責任
 監査人の責任は、監査人が実施した監査に基づいて、全体としての計算書類等に不正又は誤謬による重要な虚偽表示がないかどうかについて合理的な保証を得て、監査報告書において独立の立場から計算書類等に対する意見を表明することにある。虚偽表示は、不正又は誤謬により発生する可能性があり、個別に又は集計すると、計算書類等の利用者の意思決定に影響を与えると合理的に見込まれる場合に、重要性があると判断される。
 監査人は、我が国において一般に公正妥当と認められる監査の基準に従って、監査の過程を通じて、職業的専門家としての判断を行い、職業的懐疑心を保持して以下を実施する。
・ 不正又は誤謬による重要な虚偽表示リスクを識別し、評価する。また、重要な虚偽表示リスクに対応した監査手続を立案し、実施する。監査手続の選択及び適用は監査人の判断による。さらに、意見表明の基礎となる十分かつ適切な監査証拠を入手する。
・ 計算書類等の監査の目的は、内部統制の有効性について意見表明するためのものではないが、監査人は、リスク評価の実施に際して、状況に応じた適切な監査手続を立案するために、監査に関連する内部統制を検討する。
・ 経営者が採用した会計方針及びその適用方法の適切性、並びに経営者によって行われた会計上の見積りの合理性及び関連する注記事項の妥当性を評価する。
・ 経営者が継続企業を前提として計算書類等を作成することが適切であるかどうか、また、入手した監査証拠に基づき、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況に関して重要な不確実性が認められるかどうか結論付ける。継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められる場合は、監査報告書において計算書類等の注記事項に注意を喚起すること、又は重要な不確実性に関する計算書類等の注記事項が適切でない場合は、計算書類等に対して除外事項付意見を表明することが求められている。監査人の結論は、監査報告書日までに入手した監査証拠に基づいているが、将来の事象や状況により、企業は継続企業として存続できなくなる可能性がある。
・ 計算書類等の表示及び注記事項が、注記Xに記載された会計の基準に準拠しているかどうかを評価する。
 監査人は、監査役に対して、計画した監査の範囲とその実施時期、監査の実施過程で識別した内部統制の重要な不備を含む監査上の重要な発見事項、及び監査の基準で求められているその他の事項について報告を行う。

利害関係
会社と当監査法人又は業務執行社員との間には、公認会計士法の規定により記載すべき利害関係はない。

 

監基報 800「特別目的の財務報告の枠組みに準拠して作成された財務諸表に対する監査」付録 文例1|日本公認会計士協会、本文中の注番号は筆者が削除した。

ヘッダー

見出し、発行日付、宛先、監査事務所名及び監査報告書に対して責任を有する公認会計士の氏名が記載されます。

宛先は取締役会とすることが一般的ですが、代表取締役宛とすることもあります。

紙面で発行する場合には、公認会計士は署名(又は署名・押印)をします。

監査意見

対象とした財務諸表の期間と名称、監査意見が、記載例のように簡素に報告されます。無限定適正意見以外の場合には、監査意見の後に理由が記載されます。

監査意見の根拠

一般に公正妥当と認められる監査の基準に準拠して監査を行った旨、適用される財務報告の枠組み、監査人の独立性等、十分かつ適切な監査証拠を入手した旨が記載されます。

適用される財務報告の枠組みが、監査契約書と一致していることは必ずチェックしましょう。

 

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強調事項

強調事項は記載が必要な場合のみ記載され、不要な場合には記載が省略されます。

任意監査の場合には、以下の事項が記載される場合が多いです。文例1では計算書類等作成の基礎だけが記載されています。

  • 計算書類等作成の基礎(どんな会計基準をもとに作成したか)
  • 利用制限及び配布制限(誰が利用できるか、監査報告書を配布することの制限)

その他の記載内容

その他の記載内容とは、監査した財務諸表が含まれる書類のうち、その財務諸表以外の部分のことです。例えば財務諸表が事業報告書の一部となっているような場合には、事業報告書の財務諸表以外の部分がその他の記載内容となります。

その他の記載内容がある場合には、監査人はその他の記載内容を通読して財務諸表との重要な不整合がないかを検討する必要があります。

実務上、任意監査の場合にはその他の記載内容が生じないように、財務諸表と監査報告書のみを製本し、事業報告書には監査報告書を添付しないことが多いように思います。

計算書類等に対する経営者及び監査役の責任

経営者の責任には、経営者は財務諸表を作成する責任があること、経営者は適用される会計基準が受入可能かどうか判断すること、経営者は必要な内部統制を整備・運用する責任があることが記載されます。

監査役の責任には、取締役の職務執行を監視することが記載されます。監査役がいない場合には、監査役の責任に関する記載は省略されます。

計算書類等の監査における監査人の責任

長々と書いてあるセクションですが、概ね次のような内容が記載されています。

  • 財務諸表に重要な虚偽表示がないかどうかについて合理的な保証を得ること
  • 監査報告書で独立の立場から意見表明すること
  • 虚偽表示にどのような場合に重要性があると判断されるかの説明
  • 実施する監査手続の内容
  • 監査役に対して必要な報告を行うこと(監査役がいない場合には取締役会や代表取締役

利害関係

会社との間に利害関係がないことを記載します。

* * *

今回は任意監査における無限定適正意見の文例を元に、監査報告書にどのようなことが書かれているか解説しました。この記事へのご質問・気づき事項がありましたらお問い合わせフォームよりご連絡いただけると助かります。

*1:上場企業では「監査上の主要な検討事項」というものが記載されます。監査上の主要な検討事項は各企業固有のものであり、記載例はなく担当する公認会計士が文章を考えています。