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暇な公認会計士が、監査や身近な会計、その他自由に意見を述べています。

監査上の重要性とは何ですか?

質問

公認会計士と話をする中で、「金額的に重要性がない」とか「僅少基準未満」、「手続基準値未満」といった表現が出てきます。これらはどのような意味なのでしょうか?

回答

公認会計士による監査では、①重要性の基準値、②手続実施上の重要性、③明らかに僅少な虚偽表示と判断する金額、という3つの金額基準値を設定します。監査ではこれらの金額基準値を用いて取引サンプルを決定したり、会計処理の誤りが重要であるかどうかを判断します。

 

 

重要性の基準値

監査計画の策定時に決定した、財務諸表において重要であると判断する虚偽表示の金額(監査計画の策定後改訂した金額を含む。)をいう。

監査基準報告書(序)「監査基準報告書及び関連する公表物の体系及び用語」|日本公認会計士協会

重要性の基準値は、「財務指標 × ◯%」というように、財務指標に一定割合を乗じて計算されます。財務指標には損益計算書の数値、貸借対照表の数値が主に用いられます*1財務指標に乗じる一定割合は、各監査法人が独自に設定しています*2

上記の数値から1つ又は複数の数値が採用されます。場合により数期間の平均値を利用する場合もあります。

定義のとおり、重要性の基準値を超える財務諸表の誤りは、重要なものと判断されます。このような誤りがある場合には修正を行う必要があり、修正をしない場合には除外事項付適正意見や不適正意見となることが考えられます。

手続実施上の重要性

未修正の虚偽表示と未発見の虚偽表示の合計が重要性の基準値を上回る可能性を適切な低い水準に抑えるために、監査人が重要性の基準値より低い金額として設定する金額をいう。この手続実施上の重要性は、複数設定される場合がある。なお、特定の取引種類、勘定残高又は注記事項に対する重要性の基準値に対して設定した手続実施上の重要性を含む。

監査基準報告書(序)「監査基準報告書及び関連する公表物の体系及び用語」|日本公認会計士協会

「重要性の基準値 × ◯%」といったように、重要性の基準値の一定割合として計算されます。

手続実施上の基準値は、主に監査手続の実施(残高確認、売上取引から主要な取引としてサンプルを選定する、等)にあたり、検討対象とする取引を選定するために用いられます。

売掛金の残高確認を例にとると、相手先ごとの残高のうち、①手続実施上の基準値を超える残高を有する相手先は全て発送する、②手続実施上の基準値未満の相手先は監査チームの方針により一定件数を無作為に選んで発送する、というように用いられます。

 

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明らかに僅少な虚偽表示と判断する金額

「明らかに僅少な虚偽表示と判断する金額」については、監査基準報告書で定義はされていません。実務上は「僅少基準値」などと呼ばれることが多いです。

監査は「重要性」を判断して手続が実施されるため、全ての虚偽表示(誤り)について検討するわけではありません。僅少基準値を下回る誤りは詳細な検討を省略し、僅少基準値を超える誤りが修正されない場合に、監査意見への影響を評価することになります。

一般的に、「僅少基準値未満だからパスしましょう」といった表現は、「僅少基準値を下回ることから監査上問題としない方針です」と捉えて良いと思います。

僅少基準値を超える誤りは、経営者確認書において、①誤りの一覧を添付し、②誤りは個別にも合計しても重要でないと経営者が判断していること、を表明することとなります。詳細は経営者確認書に関する記事をご覧ください。

なお、僅少基準値未満の誤りが複数発見されるような場合で、各誤りを合計した額が僅少基準値を超える場合には僅少基準値を超える誤りと同様に扱われるため留意が必要です*3

重要性の基準値等は教えてもらえるのか?

重要性の基準値等の指標は、監査を実施する上で重要な情報であり、仮に監査を受ける側が知ることになると当該数値を下回る範囲で不適切な処理が行われる可能性があることから、通常は教えてもらえません*4

未修正の誤りが僅少基準値を超えるかどうかについても、僅少基準の数値自体を直接伝えることはなく、個々の誤りについて超えるかどうかを言及するに留まることが通常です。

* * *

今回の記事では監査上の重要性について解説しました。この記事に関するご質問、お気づきの点がございましたら、当記事コメント欄かお問い合わせフォームよりご連絡いただけると助かります。

 

 

*1:利益×◯%、総資産×◯%のように、単純な計算で求めることが多いように思います。中には利益の複数年平均を取るとか、いくつか(粗利×◯%、営業利益×◯%、税前利益×◯%、総資産×◯%)計算した上でその範囲内で決めるということも行われているらしいです

*2:ほとんどの監査法人では、重要性の基準値の計算方法を決めています。たまーに法人として決めておらず各会計士が決めているような場合もあります。

*3:損益計算書に関する誤りで、利益が増える方と減る方の両方の誤りがある場合、利益インパクトを考慮し純額で判断するか、それとも誤りの絶対値で判断するか(利益・損失の方向を無視して金額ベースで判断する)は、各監査法人により扱いが異なります。

*4:稀に、この辺りの感覚が欠如している会計士がいることは否定しません。