質問
銀行との借入契約で会計監査を求められることとなったため、監査法人と監査契約を締結することになりました。初めて監査契約書を見ることになるのですが、顧問弁護士はおらず、法務を専門とする担当者もいないためどのような点に注意して内容を確認すれば良いかわかりません。各記載事項について、記載されている意味とチェックポイントを教えてください。
回答
借入契約で要求されている事項が監査契約書に記載されているかという観点で、注意してチェックする必要があります。特に以下の点は重点的にチェックをすべきです。
- 監査の目的及び範囲:列挙されている書類名に不足がないか。
- 適用される財務報告の枠組み:借入契約で要求されている基準・規程と一致しているか。
- 監査報告書の提出時期:借入契約で求められている期限に間に合うか。
監査報告書のひな形
日本公認会計士協会HPの下記リンク先では監査契約書等の監査関係書類のひな形を公表しています。監査法人ではひな形をもとに、各監査業務の契約書を作成します。
以下では、その他の任意監査(監査法人用)のひな形(様式J-1)をもとに監査契約書にどのようなことが書かれているか解説します。
表紙及び2ページ目
表紙には表題が記載されます。監査を実施する場合には「監査契約書」、レビューを実施する場合には「レビュー契約書」、監査に加えて中間レビューを実施する場合には「監査及び中間レビュー契約書」などと、実施する業務に合わせて記載します。
「委嘱者」は監査を依頼する人です。銀行との借入契約で監査を要求されている場合でも、委嘱者は銀行ではなく実際に監査を受ける会社(借入をした会社)となることが通常です。
「受嘱者」は監査法人です。
2ページ目には収入印紙が貼り付けられ、委嘱者と受嘱者が割印を行います。
3ページ目 冒頭
再び「監査契約書」等の表題、委嘱者、受嘱者が記載されます。
冒頭の「委嘱者と受嘱者とは、公認会計士法上の著しい利害関係〜〜」の文章はこのまま利用されることが一般的です。
監査の目的及び範囲
監査の対象とする財務諸表を明記します。
ひな形で「○○○○」とされている箇所には「貸借対照表」や「損益計算書」といった書類の名称が記載されるため、記載されている書類名が借入契約で監査を要求されている書類と一致しているか&漏れがないかを確かめてください。
監査の対象とする日付又は期間
いつの財務諸表を監査するのかを明記します。
会計期間が12ヶ月で、決算日が2023年3月31日の場合には、「2022年4月1日から2023年3月31日までの期間」のように記載されます。
適用される財務報告の枠組み
貸借対照表や損益計算書などの財務諸表が、何の基準・規程に基づき作成されるのかを明確にします。ひな形の「◯◯◯◯」の部分には、「中小企業の会計に関する指針」等の具体的な枠組みが記載されます。
ここで記載された枠組みが、借入契約で要求されている枠組みと一致しているかどうかチェックする必要があります。
業務執行社員の氏名
監査報告書に署名をする公認会計士の氏名が記載されます。ひな形では2名となっていますが、1名〜3名となるケースが多いと思います。
監査報告書の提出時期等
監査報告書を「誰あて」に「何部」、「いつ」提出するか記載されます。
銀行の借入契約で要求される監査の場合には、委嘱者の「取締役会」や「代表取締役」宛に提出されることが多いです。
部数は特に決まりはありません。原本を必要とするのが委嘱者だけ(銀行はコピーで良い)なら1部、銀行も必要なら2部、というように最低限の枚数が記載されていれば良いと思います。
提出時期が、銀行に財務諸表を提出する時期より前になっているか確認をしてください。3月決算の場合には、株主総会で承認が完了する6月末を期限として銀行に提出することが多いかと思います。この場合には、提出時期が「xx年6月」以前とされていることを確認した上で、現実的なデッドラインを監査法人と共有すること(最終営業日の前日、など)が必要です。
提出時期は「年月」までの記載とすることが多いように思います。期限ギリギリに慌てないためにも、デッドラインの共有は重要です。
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監査報告書の配布及び利用制限
財務諸表を広く一般に公表することを前提としていない場合には、監査報告書の配布や利用を制限する場合があります。
監査契約書でこの条項がある場合には、最後に提出される「監査報告書」の文章中にも配布・利用制限に関する記述がなされます。
受嘱者との連絡に当たる委嘱者の役職員の氏名及び役職名又は所属部課
会社側の監査の窓口となる人を記載します。
財務担当取締役や、経理担当部署の部長・課長、それらがいない場合には代表取締役などが記載されます。
監査見積時間数
監査で「誰」が「何時間」作業を予定しているか記載されます。時間数ではなく日数で表記されることもあります。
基本的には見積時間数をもとに監査報酬が決定されます。ここで記載された時間数は監査実施前の「見積り」であるため、実際の時間数とは異なることがあります。
ひな形で「◯◯◯◯」とされている部分は、実際に作業を行う個人名が入ることもあれば、「公認会計士」等の作業を実施する予定の者の資格名で表記されることもあります。
報酬の額及びその支払の時期
監査報酬の金額と支払時期が記載されます。
ひな形に記載のとおり、上記の見積時間を実績時間が超えた場合には、報酬額の改定(報酬の増額)を協議することとなります。
支払の時期については特段決まりはありません。監査法人の方針により、毎月・四半期ごと・着手時一括など指定されます。
経費の負担
監査で生じる交通費や消耗品等の経費について、会社と監査法人のどちらが負担するか記載します。
特約
裁判の管轄と、その他必要な事項を記載します。
末尾
監査契約書の作成部数、契約締結日、委嘱者と受嘱者の契約当事者(委嘱者は代表権のある取締役、受嘱者は業務執行社員のうち1名か法人代表者)が記載され、委嘱者と受嘱者の押印がなされます。
監査約款
監査約款には、監査の前提となる事項や監査の性質・限界など、会計監査を実施する上での重要な事項が記載されており、会計監査を受ける上で知っておくべき事項が列挙されています。
特に以下の項目については、約款を読んで理解し、わからない点は監査法人に意味を確認するべきです(条文番号はひな形に合わせており、実際の約款と異なる場合があります)
第3条2項:委嘱者の監査に対する了解事項
第4条:委嘱者の責任
第9条各項:委嘱者は、〜〜確認する。委嘱者は〜〜するものとする。など委嘱者の義務の記載あり。
第12条:監査報告書の利用
第15条:契約の解除・終了
監査報告書の様式及び内容
任意監査の場合には、最終的に提出予定の監査報告書が別紙として添付されます。
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以上が任意監査契約書に記載されている事項のおおまかな内容です。赤文字部分を中心にチェックを行い、監査が想定した範囲で実施されることを確認しましょう。当記事へのご質問・気づき事項がございましたらお問い合わせフォームよりご連絡いただけると助かります。