質問
監査人から社長とのディスカッションを実施したいと言われたのですが、どのようなことをディスカッションをするのでしょうか?
回答
経営者(社長)とのディスカッションは、主に以下の点について行われます。
- リスク評価に関する補足的な情報を入手するため(文書化されていないが経営者が独自に実施している調査・分析の内容を含む)。
- 監査上の重要な事項に関する経営者の見解を入手するため。
- 監査の過程で発見された違法行為の内容を経営者に報告するため。
経営者 = 業務を執行する取締役
経営者=社長、というイメージがありますが、監査基準報告書の定義ではもう少し広く、業務執行に責任を有する取締役とされています。
取締役又は執行役のうち、企業における業務の執行において責任を有する者をいう。国によっては、ガバナンスに責任を有する者の一部若しくは全員が経営者である企業もあり、又はオーナー経営者のみが経営者である企業もある。
監査基準報告書(序)「監査基準報告書及び関連する公表物の体系及び用語」|日本公認会計士協会、太字・フォント調整は筆者加工
これには社長が入ることはもちろん、取締役の中でも担当が割り振られている場合(営業担当取締役や財務担当取締役、など)には、それぞれの業務(営業や財務など)執行に責任を有することから、担当が割り振られている取締役は対象となります。
経営者とのディスカッションの内容
経営者とのディスカッションは、リスク評価に関する補足的な情報を入手するために有用です。企業が作成した文書には明記されていない経営者が独自に実施している調査・分析、経営者の見解について知ることができます。
また、監査上の重要な発見事項に関する経営者の見解を入手するためにも重要です。監査上の重要な発見事項(虚偽表示など)を、経営者がそもそも知らなかったのか、知っていて対応を図らなかったのか、経営者の考えを知るためには本人に聞く以外にありません。
さらに、監査の過程で発見された違法行為の内容を経営者に報告するためにディスカッションを行う場合があります。財務報告に影響するかどうかに関わらず、監査人は公認会計士の倫理規則に基づいて、違法行為又はその疑い*1について経営者に報告します。
リスク評価に関する補足的な情報を入手するため
経営者の有する情報*2の中には文書化されておらず監査人が入手できていないリスク情報が存在する可能性があり、経営者とのディスカッションのみが、監査人が情報を入手する機会となる場合があります。
そのような情報を入手し、監査上の重要な虚偽表示リスクを漏れなく識別するためにディスカッションを実施します。
監査上の重要な事項に関する経営者の見解を入手するため
監査上の重要な事項*3に関して、経営者の見解を監査人が直接入手するためにディスカッションを行う場合があります。
経営者の見解を監査担当者からまた聞きするよりも、経営者本人から直接入手する方が監査証拠として証拠力が高くなるためです。
また、意外と担当者レベルでは把握していないリスク分析などが実施されている場合や、取締役会議事録に記録されていない取締役間の協議の過程を知ることも少なくありません。そのような情報を入手するためにもディスカッションが利用されます*4。
監査の過程で発見された違法行為の内容を経営者に報告するため
公認会計士の倫理規則では、監査の過程で発見された違法行為又は違法行為の疑いに対応することが求められています。また監基報では、発見された違法行為等に関して、経営者や監査役等とコミュニケーションを行うことが必要とされています*5。
違法行為には財務諸表に直接影響を及ぼすものと、財務諸表には影響がないものの企業の運営上重要なものがあり、監査人はどちらについても違法行為等がないか検討を行い、もし違法行為等が発見された場合には経営者等に報告を行います。
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この記事では、経営者ディスカッションを行う理由について解説しました。経営者ディスカッションについて他に知りたいことがあれば、ぜひコメント欄にてご質問をお願いします。