input & output

暇な公認会計士が、監査や身近な会計、その他自由に意見を述べています。

残高確認の差異調整とは何ですか?

質問

監査で売掛金の残高確認が行われた結果、確認額と回答額に差異がありました。監査人より、「確認の結果生じた差異について、差異調整を行ってください」と依頼を受けましたが、差異調整はどのように行えば良いのでしょうか?

回答

確認状に記載した確認額と先方からの回答額の差は「確認差異」と呼ばれます。監査では①確認差異があるか、②確認差異が生じた原因は何か、③確認差異は虚偽表示(会計処理の誤り)に該当するか、という点が検討されるため、これに回答するために差異原因の調査や根拠となる証憑の提出が必要となります。

残高確認については別記事で解説しております。

input-and-output.hatenablog.com

差異調整はなぜ行うか

売掛金や買掛金等の債権債務の監査手続として行われる「確認」(残高確認)は、監査人が会社以外の第三者から情報を得られることから、証拠力の高い監査証拠を入手できます。

残高確認を行うと、確認先から「確認を受けた金額は違いますよ」と回答を受けることがあります。例えば以下のような状況が確認差異が生じる原因となります。

  • お互いに認識している単価が違っていた
  • 売上側は出荷基準で売上(売掛金)を計上したが仕入側は検収基準で債務認識をしているため債権認識・債務認識のタイミングが数日ずれた
  • 返品の処理が漏れていた
  • 架空売上があった

また上記の例のうち、出荷基準と検収基準のように債権債務認識時点の相違であれば会計処理に誤りはないのですが、返品処理の漏れや架空売上の場合には会計処理の誤りであり、修正が必要となります。

差異調整は、①確認差異の原因を調査し、②確認差異の修正をする必要があるかどうかを判断するために行われます。

差異調整の方法

差異を調整する場合には確認差異調整表を作成し、確認差異の額、差異理由、要修正額などを一覧できるようにします。

確認再調整表の例
差異がない場合

確認額と相手先からの回答が一致している場合、通常は差異の検証は行われません。例外として、差異があることが確実に想定されるにも関わらず差異のない回答を受け取った場合には、回答の信頼性を検討することになります。

差異がある場合

差異がある場合には、差異理由の調査と会計処理誤りの有無の検討が行われます。

  • 差異に合理的な理由がある場合:会計処理の誤りの有無を検討します。
    • 会計処理の誤りがある場合には、修正仕訳を行うことで正しい数値に修正します。例えば、返品や値引きの処理を、確認先は正しく返品・値引きを認識しているが当社側で処理の漏れがある場合などが該当します。
    • 会計処理の誤りがない場合には、差異理由を把握することで手続は終了し、修正仕訳等の仕訳計上は行いません。先ほどの例とは反対に、当社側で返品・値引きを正しく処理したが確認先ではこれらの処理が漏れているような場合などが該当します。
  • 差異に合理的な理由ない、差異理由が不明な場合:上記の会計処理の誤りがある場合と同様に扱われます。なお、明らかに軽微な差異は消費税の認識額の違いとし、合理的な理由があるものとして扱う場合があります。
虚偽表示(会計処理の誤り、合理的な理由のない差異)の集計と評価

会計処理の誤りや合理的な理由のない差異が発見された場合には、これらは虚偽表示(残高の誤り)として集計されます。集計した虚偽表示が監査上の僅少基準値を超えている場合で虚偽表示が修正されない場合には、経営者確認書に未修正の虚偽表示がある旨が記載されます。

さらに、集計した虚偽表示が監査上の重要性の基準値を超えている場合で虚偽表示が修正されない場合には、無限定適正意見が表明されない(限定付適正意見や不適正意見が表明される)可能性があります。

なお、虚偽表示の集計はサンプルの抽出方法により異なります。特に代表サンプル(母集団から無作為に抽出したサンプル)の場合には、虚偽表示額の推定(虚偽表示の額×母集団の額 / 確認実施金額)が行われます。実際に検出された虚偽表示の額と監査上虚偽表示と判断される額が異なりますので、監査対応をする場合には留意が必要です。