本書は子どものワクチン接種についての本である。とはいっても、ワクチンごとの効能や接種推奨スケジュールを解説した実用書ではない。
本書では、著者自身が子どものワクチン接種にあたり、ワクチンの弊害として噂されることに悩み、その悩みを客観的な事実もとに解消していくストーリーが語られている。
本書を、子どものワクチン接種に関わるすべての人におすすめしたい。母親だけでなく、父親も、おじいちゃんおばあちゃんも、保育園や幼稚園の先生も。子どもを現に育てている人にとっては、子どもにワクチンを受けさせることの意義がわかるだろう。保育園や幼稚園の先生にとっては、子育て世帯へのアドバイスをする際の確かな知識となるだろう。
著者は、子どもが生まれてからワクチン接種をすべきか、避けるべきか苦悩することになる。母親たちの間ではワクチン接種の弊害がとりざたされていて、著者も他の母親と同様に、子どもにワクチンを接種させるべきか悩むこととなる。
この本のすばらしいところは、著者がこの悩みを、数々の文献や客観的な事実を使って解き明かしていくところにある。著者は大学でライティングを教えている文筆家であり、ワクチンの専門家ではない。それでも、事実のつみあげにより自身の悩みに対峙する姿は圧巻である*1。
もし子どものワクチン接種に悩んでいるのだったら、本書36ページのこの文章を紹介したい。
ワクチン接種という行為を、接種した人間一人だけでなく、コミュニティ全体のためのものと考えれば、それはある意味、免疫バンクのようなものだろう。(中略)これは、集団でワクチン接種した方が個人個人でワクチン接種するよりずっと効果的だという「集団免疫」の原理である。
日本では、定期接種のワクチンは公費(自己負担なし)*2で、すべての子どもが受けることが当たり前だと思われている。しかし、実際にはワクチンの接種率は100%にはなっていない*3。
この引用部分の考え方からすると、日本でも、ワクチンを接種していない子を守るために、自分の子どもにワクチンを接種する意義があるといえるのではないだろうか。
本書の著者であるユーラ・ビスは、ノースウェスタン大学でライティングを教えている文筆家である。これまでの著書の中には、全米批評家協会賞を受賞したものもある。彼女のエッセイは、『ニューヨーク・タイムズ』などの媒体にも掲載されている*4。
これから子どもにワクチンを接種させることに不安がある人、すでに接種したワクチンに対して不安がある人、ワクチンについて誰かに説明する必要がある人……、何らかの形でワクチンに関わる人にとって、本書は必読である。
特ワクチンに対するウワサ不安に、著者がここまで寄り添っている本は少ないのではないか。同じ悩みを持つ人はぜひとも本書を読んで、著者とともに悩みを解消してほしい。
ワクチン接種を多くの人が拒否した場合にどんなことが起こるのだろうか?それを知るにはこちらの本が分かりやすい。
前半で書かれている百日咳ワクチン(DTPワクチンのP)をめぐる一連の流れは必読だ*5。