本書は、親の言葉が子どもの脳の成長に及ぼす影響について書いた本だ。親が実践すべきことと、その背景にある理論、研究が整理されていてとてもわかりやすい。
子どもを育てているが、どんな風に子どもに話したらいいかわからない人には、本書が参考になることは間違いない*1。
保育者にとっても、子どもの成長を促すための話し方を学ぶために、本書は有用だ。
3000万語の格差 : 赤ちゃんの脳をつくる、親と保育者の話しかけ
- 作者: ダナ・サスキンド,掛札逸美,高山静子
- 出版社/メーカー: 明石書店
- 発売日: 2018/05/14
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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この本の著者であるダナ・サスキンド氏は、小児人工内耳外科医として、耳の不自由な子どもに人工内耳を取りつける手術を行っていた。その中で、手術時点ではほとんど同じような聴力の状態であったのに、手術後の状況が全く正反対、つまり、ある例ではコミュニケーションに難がないのに、別の例ではコミュニケーションがうまくいかない事例に出会った。
この原因を探るために、社会学者に転身した。社会学者として学ぶ中で、「3000万語の格差」を導き出したハートとリズリーの研究に出会い、本書が生まれるにいたった。
本書の題名にある「3000万語の格差」とは、4歳時点において子どもが保護者から聞く言葉の数の差である。専門職の家庭(収入の多い家庭)の子どもは、生活保護世帯(収入の少ない家庭)の子とくらべて、4歳時点で「3000万語」も多い言葉を聞いているというのだ。
また、言葉の量だけでなく質についても注目したい。専門職についている家庭の子どもは、肯定的・応援の言葉(「いい子だ」「その通り」)を生活保護世帯の子どもよりも多く聞いているうえに、否定・禁止の言葉(「ダメな子」「間違ってる」)を聞く回数は少なくなっている。4歳時点で比べると、専門職家庭の子は生活保護世帯の子どもに比べ、肯定的な言葉を約56万回多く聞き、否定的な言葉は12万回少なく聞いているのだという。
こうした研究から著者は、言葉の量と質に注目し、「3000万語イニシアティブ」プロジェクトを開始した。ここでは、保護者が実際に子どもに対して言葉を向けるにあたって意識すべきことを「3つのT」として紹介している。
本書で紹介されている「3つのT」とは、”Tune In” , “Talk More” , “Take Turns”の3つである。簡単に紹介したい。
Tune In(チューン・イン):子どもが集中している対象に保護者が気づき、適切な場合にはその対象について子どもと一緒に話すこと。
Talk More(トーク・モア):子どもと話す保護者の言葉を増やすこと。単語の数だけでなく、どんな単語を使うのか、単語をどのように言うかも大切。
Take Turns(テイク・ターンズ):子どもを対話のやりとりの中に引きこんでいく方法。チューン・インし、トーク・モアをした後に、保護者は子どもが反応するまで「待つ」。
本書では、「3つのT」の実践会話例もいくつか出ているのでぜひ見てほしい。「こんなに話すの!?」と驚くし、自分がいかに子どもに言葉を向けていなかったのか反省すると思う。
便利なツールである「3つのT」が書いてある第5章に注目が行きがちだと思うが、個人的にはその前の第4章「保護者が話す言葉、そのパワー」をじっくりと読むことが本書の醍醐味だと思う。
自己肯定感(内面の満足)に対する言及、子どものグリット(頑張り、辛抱強さ、勤勉、我慢など)の育て方、男女差の原因、などなど、保護者目線で読んでいてとても勉強になった。
さて、読んだことは早速実践に移すに限る。
砂場で遊んで砂だらけで帰った子どもを自発的にお風呂に行かせるように、「3つのT」を試してみた。
Tune In
子どもは汗だらけの泥だらけである。子どもは手が汚れていることを気にしている。
Talk More
娘ちゃんいっぱい汚れちゃったねー、お砂いっぱい着いてるねー。汗もベトベトだねー。このままご飯食べるよりも、お風呂入ってきれいになってからの方がご飯おいしいんじゃないかなー。スッキリして食べたいなー。夜ご飯は鳥肉だよー、スッキリして食べたいねー。
Take Turns
娘ちゃんどうかなー、おふろ入るかなー?えー、入らないのー。ベタベタだけどいいのー?スッキリしてからの方がいいんじゃない?そうだよねぇ、お風呂入った方がいいよねー。じゃあお風呂入ろっかー。ほーら、一番に入っていいよー。
無事にお風呂に入れることができた。
これは思った以上に頭を使う!けど楽しい!
本書を読んで、是非実践してみてほしい*2。
3000万語の格差 : 赤ちゃんの脳をつくる、親と保育者の話しかけ
- 作者: ダナ・サスキンド,掛札逸美,高山静子
- 出版社/メーカー: 明石書店
- 発売日: 2018/05/14
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