input & output

wordpress に移行中です。 http://input-and-output.me/

「ルポ 保育格差」 保育所、保育士の質がいま問われている

 

保育格差。本書は、保育所・保育士の質の差を、保育園へのインタビューや東京都から入手した実態データをもとに書き起こしたものである。

子どもを保育園に預けている親として、また、これから保育園を作ろうとしている身として、とても興味深い内容であった。

 

本書は保育所経営者と保育士にとって必読である。特に、財務データを用いた人件費比率の水準は、今後保育所が保育士を確保するにあたって重要なデータとなるだろう。

今後保育士として働きたい人にとっては、自分が働く場所を選ぶ際に、本書の分析視点をしっかりと押さえておくべきだ。

さらに、保育所に子どもを預けている人にとっても役に立つ。送り迎えのときに何となく目にする保育園の状況が、また違ってみえるだろう。

 

本書では、「保育所・保育士の質」の視点に着目した保育格差が指摘されている。「格差」という単語をみると、親の収入や住んでいる地域を思い起こしがちであるが、この点について特段言及はない。著者は、客観的な財務データや、実際に保育士として働く人へのインタビューに基づき、事業所と保育士の質の分析を行なっている*1

 

さらに本書では、学童保育についても触れられている。

学童保育は歴史が短く*2、実態を表した書籍は少ないように思う。本書では学童保育が直面する問題についても、実際に学童保育に携わっている人へのインタビューを通じて触れている。

 

本書で注目すべきところは、第2章で行われている保育所の財務データ分析である。著者は、東京都に情報公開請求を行い、東京23区内に私立の認可保育所を開設している事業者の財務データを入手した*3。これをもとに、各保育所の人件費比率分析、事業活動支出比率分析を行っている。

こうした分析の結果、各比率が小さかった(つまり収入を人件費や事業活動支出にあまり振分けていない)事業所を本書では一覧にしている。事業者名、保育所名が明記されているため、もし読者の勤務先である場合や、子どもを預けているとしたら不安に思うのではないかと若干心配だ。それでもこうした事実を公開している点は注目すべきである*4

 

本書を読み終わった翌日、保育園に子どもを送りに行った。我が子を預けている先は認可保育園ではないが、それなりに歴史のある園だ。

 

「〇〇組さん早くタオル出して手洗ってー!いつまでもそこにいると邪魔でしょー!」

「〇〇君、上着それじゃあみっともないからしまってー!」

 

文字では伝わらないが、若干怒り気味な雰囲気をまとった、大きな声だ。

どうしても保育士の言い方が気になってしまう。親としてはその言い方でも良いだろうけど、保育士としてはどうだろうか。

いや、もしかしたらこの人は保育士ではないのでは……*5

 

保育の実態について、客観的なデータとインタビューをもとに構成されている本書を読むと、昨今のブラック保育園問題についてより深く理解できると感じる。ぜひ本書を読んで、保育に関する問題への理解を深めてほしい。

 

 

ルポ 保育格差 (岩波新書)

ルポ 保育格差 (岩波新書)

 

 

*1:事業所の分析対象数は明記されていたが、保育士などへのインタビュー数は不明であった。インタビューを行った対象について、詳細に明記してほしかった。

*2:児童福祉法による設置・運営は、わずか二十年の歴史しかない」(本書p.137より)

*3:入手したデータは2015年度の財務諸表。合計731施設。

*4:分析結果について、どのようなレビューを受けているかは不明である。また、一部の図表には、財務諸表の記載にミスがあるものは除いている旨の注があるが、どのようなデータをミスとしたかは不明である。

*5:と、ここまで書くと、この保育園どうなの?と感じるかもしれないが、保育園全体としてはまぁまぁ良いところだと思っている。園庭がないのが残念だが。

「一発屋芸人列伝」 一発屋の、一発屋による、一発屋に捧げる本

ノンフィクション。本書は、「ルネッサーンス!!!」のかけ声が印象深い一発屋芸人*1による、一発屋芸人について書かれたノンフィクションだ。

 

著者はこの本について、

一発屋の、一発屋による、一発屋へ捧げる拙稿が、悩み苦しむ芸人たちのゲティスバーグ演説となれば幸いである。

と述べている。

そんな本書を読んでほしいのは、一発屋芸人を「一発屋芸人(笑)」という雰囲気で呼んでいる人だ。「一発屋」という響きがいかに重たいか、本書は教えてくれる。

そういえば、リンカーンによる「人民の、人民による、人民のための〜」で知られるゲティスバーグ演説は、非常に短く簡潔だった*2

本書でも、芸人一人あたりのページ数はおよそ20ページであり決して長くはない*3。このため、余計なエピソードがなく、一発後がギュッと詰まっていることで、今を生きる一発後の芸人たちの姿が鮮明に描かれているように感じた*4

 

さて、本書では、次の芸人が取り上げられている。

こいつ誰だ、なぜあいつが入っていないんだ。色々と疑問に思うこともあるが*6、著者の人選に文句を言う筋合いはないだろう*7。仮に知らないとしても、一発の時期を見逃していたのだったらしかたない。

 

一発後にまったく鳴かず飛ばずの者、違う芸に取り組む者、テレビからは遠ざかっているが営業で活躍している者。一発屋とひとくくりにされても、その後の人生は多種多様。

そんな芸人達の姿から、学べることがある……ような気がするが、もしかしたら何も学べないのかもしれない。

 

一発屋から学びたい人も、単に生存確認がしたい人も、本書を手にとって楽しんでほしい。

 

一発屋芸人列伝

一発屋芸人列伝

 

 

 

*1:失礼。

*2:あまりにも短くて、気付いたときには演説が終わっており、演説時のリンカーンの鮮明な写真がないらしい。

*3:テツ and トモはエピソードが多いおかげか28ページ。ムーディ勝山と天津・木村は二人で20ページ。

*4:単に一発後のエピソードがないというわけではないことを願う。

*5:髭男爵山田ルイ53世が本書の著者。

*6:不勉強で恐縮だが、ハローケイスケは知らなかった。小島よしおが入っていない。

*7:わたしたちは一発屋じゃないのだから。

「おしっこちょっぴりもれたろう」もれて かわいて またもれて

おしっこちょっぴりもれたろう。題名がこの絵本のすべてを表している。おまけにこの表紙である。なんとわかりやすい。

 

おしっこちょっぴりもれたろう

おしっこちょっぴりもれたろう

 

 

この絵本を読んでほしいのは、パンツが板についてきたけれど、ふとした拍子にちょっぴりもれてしまう、そんな子だ*1*2

 

平仮名とカタカナだけが使われているので、年長さんなら自分で読み進められるのではないか。まさに、現在進行形で もれたろうな子にピッタリだ。

ちなみに5歳半の息子(たまに もれたろう)は、たどたどしいながらも一文字ずつ読み進め、しっかりと笑えるところで笑っていた。空気の読める子である。

 

この絵本の主人公は、おしっこがちょっぴりもれてしまうことが悩みの もれたろう君である。考え方がしっかりしているので、年長さんだろうか。

そんな もれたろう君が、

じつは もれたろうで こまっているひとは ほかにもいるんじゃないかな?

という疑問を持ち、色々な人に「もれたろう?」と聞いていく。

疑問を持ち、インタビューをする。大人顔負けの行動力である。

さてさて、もれたろう君はインタビューで何を学んだのか。

そして待ち受ける笑撃のラスト……!!

 

ヨシタケシンスケ氏の作品の中でも、特に笑える1冊だ*3

 

最後に、どうしても本書で紹介したい一節があるので、これを引用しておこうと思う。

絵本は文章が少なく、多く引用することがはばかられる気がするが、この一文だけは紹介したい。

かつて、子どもの頃、多くの人が思っていたこと(そして実践していたこと)ではないだろうか。

ぼくは しってる。これ、しばらくすると かわくんだ。

そういえば息子のことを「たまに もれたろう」と書いたが、もしかしたら かわいたあとだったのかもしれない…… *4

おしっこちょっぴりもれたろう

おしっこちょっぴりもれたろう

 

 

*1:そのくらいの子はこの記事にたどり着かないだろうから、代わりにこの記事を見たお父さんお母さんが買ってあげてほしい

*2:ネタバレになるので詳細には書けないが、子ども以外のもれたろうにもぜひ読んでほしい

*3:子どもに絵本を読んでいる声だけを横で聞いていた妻が、ラストで爆笑していた。我が妻お墨付きである。

*4:なお、この一節を嬉々として読み上げたところ、危うく妻から絵本を禁書扱いされるところだった。

読書が武器になる 「読書という荒野」

筋トレ。本書を一気に読むと、筋肉をいじめ抜いたかのような疲労感と達成感がある。

単に本書が分厚いからではない*1。ズッシリと重い、持ち上げられるかわからないベンチプレスを、ゆーっくり持ち上げ、筋肉に刺激を与える。本書を読むことは、そのようなトレーニングであると感じた。

 

このような本だからこそ、なんの気もなく、せかせかと急いで読もうとすることはおすすめできない。エキスだけを見たいのであれば、もっと読みやすい実用書に同じようなことが載っているかもしれない*2

著者のどんな読書体験が本書の主張に結びついたのか、じっくりと味わい尽くすことが本書の醍醐味である。

 

本書では、著者である見城氏*3の読書体験から搾り出された、「言葉」と「読書」に対する考え方が明瞭に示されている。

 

まずは、「読書」について著者が簡潔に主張している一文を引用したい。

読書とは自己検証、自己嫌悪、自己否定を経て、究極の自己肯定へと至る、最も重要な武器なのである。

巷にあふれる実用書では、読書で得たことをアウトプットしよう!という主張であることが多いように思う。ここでは読書はインプット情報だ。

しかし本書では、読書自体がツール(武器)となっている。自分がいて、読書というツールで自己を省みるところから自己の肯定まで行う。ここでは本が、自己をぶつけるための対象となっている。

私は、本から吸収するのではなく、本に吸収されるというようなイメージを抱いた*4。この点が非常に興味深かった。

 

そして、著者は言葉についても言及している。

言葉とはその人の生き方だ。言葉を持っている動物は人間しかいない。生き方から搾り出されてきたものが言葉であり、そして自分の発した言葉がまた自分の生き方を作っていくのだ。

 

そういえば、先日NHKで放送されていた探検バクモンのテーマが昆虫であった*5。そこでは、昆虫は約4億年前から存在すると紹介されていた*6。それだけ長く地球にいるのに、番組では標本となって箱詰めされている姿をみると、彼らに生き方などないのではと感じた*7

同時に、この著者の言葉が思い出され、言葉の力をありありと感じた*8

 

読書を単なるインプットとすることに違和感を感じる人は、本書を読むことで、読書の違う一面をみることができる。自身の考えを整理するために本書はおすすめである。

読書でトレーニングをしたいという稀有な人にもおすすめである。丹念に事実をつみあげているノンフィクションと同じような感覚を味わえるだろう。

 

読書という荒野 (NewsPicks Book)

読書という荒野 (NewsPicks Book)

 

 

 

 読書といえば、やはりこの本を思い浮かべる。本を読むことで何かを学びたい人には、こちらの本は必読だ。

本を読む本 (講談社学術文庫)

本を読む本 (講談社学術文庫)

 

 

*1:そもそもkindleで読んでいるので厚さはわからない。

*2:以下で引用もしている

*3:見城徹 - Wikipedia

*4:著者の考えとは違うかもしれないが

*5:やくみつるさん、中川翔子さんと今注目の「昆虫テクノロジー」を研究する東京農業大学へ! 探検バクモン |NHK_PR|NHKオンライン

NHKで昆虫がテーマのバラエティー番組なのに、香川照之は出ていなかった。

*6:NHK スペシャル |人類誕生 (3 回シリーズ )

人類は440万年前から存在するらしい

*7:もしかしたら昆虫学者からするとあるのかもしれない。しかし、日々子どもたちに蹂躙されているアリを見ていると、文化もへったくれもないように私は思う。まさか探検バクモンを見てこんなことを感じるとは。

*8:脚注なんてほとんど見る人はいないと思っているが、一応書いておく。一つ上の脚注の"アリ"にかけたわけではない。

ワクチン不安があるならば、読んでおきたい本がある 「子どもができて考えた、ワクチンと命のこと。」

本書は子どものワクチン接種についての本である。とはいっても、ワクチンごとの効能や接種推奨スケジュールを解説した実用書ではない。

本書では、著者自身が子どものワクチン接種にあたり、ワクチンの弊害として噂されることに悩み、その悩みを客観的な事実もとに解消していくストーリーが語られている。

 

本書を、子どものワクチン接種に関わるすべての人におすすめしたい。母親だけでなく、父親も、おじいちゃんおばあちゃんも、保育園や幼稚園の先生も。子どもを現に育てている人にとっては、子どもにワクチンを受けさせることの意義がわかるだろう。保育園や幼稚園の先生にとっては、子育て世帯へのアドバイスをする際の確かな知識となるだろう。

 

著者は、子どもが生まれてからワクチン接種をすべきか、避けるべきか苦悩することになる。母親たちの間ではワクチン接種の弊害がとりざたされていて、著者も他の母親と同様に、子どもにワクチンを接種させるべきか悩むこととなる。

 

この本のすばらしいところは、著者がこの悩みを、数々の文献や客観的な事実を使って解き明かしていくところにある。著者は大学でライティングを教えている文筆家であり、ワクチンの専門家ではない。それでも、事実のつみあげにより自身の悩みに対峙する姿は圧巻である*1

 

もし子どものワクチン接種に悩んでいるのだったら、本書36ページのこの文章を紹介したい。

ワクチン接種という行為を、接種した人間一人だけでなく、コミュニティ全体のためのものと考えれば、それはある意味、免疫バンクのようなものだろう。(中略)これは、集団でワクチン接種した方が個人個人でワクチン接種するよりずっと効果的だという「集団免疫」の原理である。 

 

日本では、定期接種のワクチンは公費(自己負担なし)*2で、すべての子どもが受けることが当たり前だと思われている。しかし、実際にはワクチンの接種率は100%にはなっていない*3

この引用部分の考え方からすると、日本でも、ワクチンを接種していない子を守るために、自分の子どもにワクチンを接種する意義があるといえるのではないだろうか。

 

本書の著者であるユーラ・ビスは、ノースウェスタン大学でライティングを教えている文筆家である。これまでの著書の中には、全米批評家協会賞を受賞したものもある。彼女のエッセイは、『ニューヨーク・タイムズ』などの媒体にも掲載されている*4

 

これから子どもにワクチンを接種させることに不安がある人、すでに接種したワクチンに対して不安がある人、ワクチンについて誰かに説明する必要がある人……、何らかの形でワクチンに関わる人にとって、本書は必読である。

特ワクチンに対するウワサ不安に、著者がここまで寄り添っている本は少ないのではないか。同じ悩みを持つ人はぜひとも本書を読んで、著者とともに悩みを解消してほしい。 

子どもができて考えた、ワクチンと命のこと。

子どもができて考えた、ワクチンと命のこと。

 

 

 ワクチン接種を多くの人が拒否した場合にどんなことが起こるのだろうか?それを知るにはこちらの本が分かりやすい。

反ワクチン運動の真実: 死に至る選択

反ワクチン運動の真実: 死に至る選択

 

 前半で書かれている百日咳ワクチン(DTPワクチンのP)をめぐる一連の流れは必読だ*5

 

*1:単にGoogle検索で満足しない人には特におすすめだ。巻末には参考文献もしっかりとついている。

*2:一部自費の場合あり

*3:定期の予防接種実施者数|厚生労働省

*4:訳者あとがきより。一部加工して引用

*5:若干誤字・脱字と思われるところが散見される。そういうことが気になる方は、そのつもりで読む方が良い